現実逃避。まだ推敲途中。未完成。まだ修正箇所あり。
感想くれたら欲しい。
序章
中学一年生、最後の春の昼休み。翔子は窓の外を眺めながら、いかにも退屈そうに大きな伸びをして、振り向きざまに友達のミカに話しかけた。
「う〜ん。あーあ、中学一年生、最後の授業だって言うのに退屈すぎー。ねぇねぇ、帰ったらまたあのゲームやろうよ!」
あのゲームとは、今話題のVRゲーム『パズル・フロンティア』。前作の『ブレイクアウト・フロンティア』に続く、最新のグラフィックを採用したVRゲームで、『一度始めたらもうやめられない』と話題になっているゲームだ。
「いいわね、あのゲーム面白いもの」
ミカも、ガヤガヤ聞こえてくるクラスメイトの姿を眺めながら、その案に賛成する。学校でしか会えないため、もうゲームの約束ができるのは春休みが明けてからになる。最後のチャンスというのもあって、ミカも快く引き受けてくれた。
「やったぁ、決まり決まり! 宿題が終わるの5時ぐらいだからその時間にゲームで集合!」
翔子は嬉しそうにはしゃぐ。その様子にミカは「相変わらずね」と苦笑した。
「私も、5時ぐらいならゲームできるわ、いつもの広場で集合ね」
「おっけ〜! 約束ね!」
授業が終わり、帰りのホームルームの最中も、翔子はミカとゲームするのが楽しみで、話が耳に入っていなかった。
帰りの準備を済まし、下駄箱では混み合うため、教室で、ミカと帰りの挨拶をかわす。
学校を出て、家が反対方向のミカと別れた後、寄り道せずに帰宅した翔子は真っ先に宿題を始めた。
宿題は大した量でもなく。ゲームのためなら何でもできる翔子にとっては、ただのスコアアタックに過ぎなかった。
結果、宿題はあっという間に終わり、翔子は大きく伸びをする。
「ん〜宿題終わった〜、さてゲームゲームっと」
翔子はガサガサとVRゲームに必須なゴーグルを探す。翔子はだらしのない性格で、すぐにゴーグルが見えなくなってしまうが、ゲームの置き場所など決して忘れはしない。
しばらくして、服の中に埋もれたゴーグルを見つけ出した。
「と、あったあった。スイッチお〜ん」
翔子は軽快に電源を入れる。しかし。
『ポコンッ!!』
耳に直接浴びせかけたような、鋭い音がなる。ノイズとともに画面が真っ暗になり、
『ログアウトがゲーム運営の都合上禁止になりました』
中央に、いつもは表示されない、警告のようなものが浮かび上がった。
「は……? 何よ、どういうこと!?」
翔子は、尋常でないその警告を見て、震え上がった。
それは突然、始まったのだった──
第一章 不可能ゲーの始まり。
しかし無常にも画面が変わって、いつもの広場が出てくる。普段と変わらない、自然で豊かな、木の温もりのする、温かな広場。いかにもVR的な、青空が広がり、上を見上げれば、止まったままずっと動かない太陽が見える。
普段なら、ここの雰囲気に和む翔子だが、そんなものに気を取られている暇はない。
──ログアウトができない。それは、長期的に見て、『死』につながるからだ。
ログアウトできないということは、食事ができないということ。さらに、ここは電脳世界のため、常に脳に情報が行く。この世界は常に太陽が登った状態のため、寝ること自体は可能でも、実質的な睡眠とは程遠い。つまり、食事も睡眠も取れないのだ。水分も取れないので、このままログアウトできなければ、3日も持たないだろう。
「そ、そうだ、ミカは!?」
はっ、と思い出し、瞬時に友の名前を叫ぶ翔子に、即座に声が返ってくる。
「私はここよ、なんだかおかしなことになったわね」
「ミカ! 良かった来てくれてたんだ! っていうかこれどうなってんの!? 私のゲーム史上こんなのなかったんだけど!?」
「落ち着きなさいよ、混乱してるのはわかったけど」
ミカは、冷静に翔子をなだめる。だが、その表情も困惑していた。運営の都合上とあったのだから、ミカだって自分と同じ境遇だろう。
「でも……! ……わかった……」
翔子は完全に混乱してしまって、何も出来そうにない。ここは情報を整理するのが得意なミカに任せるのが得策だろう。
「やぁ、お困りのようだね」
すると、突然、いつの間にいたのか、男の子が話しかけてきた。
「あ、あなたは……?」
ミカは用心深く尋ねる。年は、これから中学二年生になる自分たちよりも、二、三歳年下だろうか?
「翔子、君はどうして閉じ込められてしまったか知りたいんじゃないかい?」
「ちょっと、私のことはシカト? どういうつもりなのか知らないけどッ、翔子に手出しなんかさせないから!」
(シカト:無視という意味)
ミカは強気で問いかける。しかし、少年は聞こえていないかのように何も答えなかった。
そんなNPCに対し、翔子も用心深く尋ねる。
「あなたは一体? なんでミカの話に反応しないの?」
すると少年は、こんな事を言いだした。
「僕は、君のことしか見えない。君の声しか聞こえない。そういうふうに作られたんだ。僕はアルト。NPCだけど、HPの概念はないよ。きみにヒントをあげる。でも、答えは教えてあげられない。そういうふうに作られているから」
どうやらこの少年は色々訳アリらしい。翔子はすぐに信じたが、ミカはまだ警戒を解いていない。ミカは険しい表情で、キッと睨みつけながら鋭く問いかける。
「ヒントって何よ、なんのこと?」
──無反応。
翔子が話しかける。
「ヒントって、何のこと?」
──反応。
「ヒントって言うのは、この異常を解決してもらうためのヒントだよ」
どうやら、先程のログアウト不可については運営の仕業、というだけではないようだ。しかし、ミカはまだ信じない。
「だったら、なんかヒントを出しなさいよ」
再び鋭く問いかける──無反応。
翔子は優しく問いかける──反応。
「そうだね、まずは、なにか魔物を倒してもらおうかな?」
「え、魔物?? このゲームパズルゲームだよ??」
「そうだね、パズルゲームだ。魔物が出るようになっちゃったんだよ」
〜Topix〜
「アルト」
突然翔子たちの眼の前に現れた謎のNPC、らしき存在。翔子にしか反応できず、他のプレイヤーには話しかけられないとのこと。
ゲームセット
第二章 ゲーム開始
──パズル・フロンティア。それは、ブロック崩し系の未開の地、開拓を目標とした、パズルゲームである──
〜『パズル・フロンティア』のルール〜
崖や川沿いなど、一部の箇所はパズルパネルが仕込まれており、そのパズルをクリアするとブロック崩しができます。
ブロックを崩して連鎖を起こし、雪崩を引き起こしたりしてブロックを手に入れましょう。
ブロックは、すべての連鎖が終わったあと自動で手持ちに入ります。
(⚠連鎖が終わるまでは近づかないで下さい。巻き込まれてしまい、激痛を伴うおそれがあります)
手に入れたブロックは自分で好きなように配置、またはクラフトすることができます。
(クラフト:自分で思い描いたものを作り出すギミック)
クラフトするには、手に入れたブロックをレシピ通りに配置し、表示されたパズルを解くことで出来ます。
(⚠レシピ本は、本ゲーム攻略本を参照下さい)
数多のブロックを、パズルで操作し、理想の世界を作り上げましょう!
〜VRゲームとは〜
意識をゲーム内の電脳世界に没入させ、まるで、ゲームの中にいるようなアクションを味わえる新感覚のバーチャルゲームのこと。
もちろん、バーチャル世界で行動しているだけなので、空腹を満たすことはできない、はずだが。
プレイするには、『ハード』と呼ばれる、VRゴーグル、ヘッドホンなどが必要である。
なお、このゲームは、外の音が聞こえるように、なっていた。
「魔物って、本当にいるとして、どうやって戦うのよ?」
ミカは用心深く問う。だが、アルトにその声は届かない。言ってから、「あ」と気がついたが、その時には翔子が話しかけていた。
「魔物と戦うにはどうすればいいの?」
翔子が問いかける。アルトはようやく反応した。
「ごめんね、答えは教えられないんだ。でもヒントなら教えられるよ。これは何をやるゲームだった?」
そう聞かれて、翔子は「う〜んと……」と、考え始め。
「あっそうだ、ブロック崩しで開拓するんだったよね! そっかそれを利用して戦うんだね! それにしても、本当に大変だね、不便じゃない?」
翔子は心配そうにアルトの顔を覗き込む。アルトは軽く笑ってこう言った。
「あははっ、僕はそういうふうに作られているんだ、不便でもなんでもないよ。答えを教えられないのは残念だけどね」
アルトの表情は、NPCというのもあってか、どこか乾いていた。なのに、どこか、人間味を感じた。
ミカは不可思議に思いながらも、翔子が特に気にしていないので気にしないことにした。
「ふ〜ん。まぁ、いいや、魔物ってどこにいるのってあぁ、答えは言えないんだっけ……じゃあ、魔物のいる場所のヒント頂戴!」
次から次へと答えを聞こうとする翔子に対して、アルトは少し苦笑する。
……やはり、感情がある気がする。気のせい、なのだろうか。
「そうだなぁ……、まぁ、とりあえず開拓してみたらわかるかもね?」
そうい言ったあとに、アルトの姿は量子化するように消えた。
「あれ!? アルト!? ……消えちゃったよ……ま、いっか! ミカ、あの子のアドバイス通りに開拓してみよ!」
ミカもその様子を見てため息をつく。アルトがどこかへ行った理由がわかるからだ。あの様子では、矢継ぎ早に質問されてしまうだろう。
「はぁ……、まぁいいわよ。さすがに閉じ込められたまんまじゃ学校に行けないし」
渋々ついていくのは、翔子が危なっかしいからであった……。
一方、夏木家で。
晩ご飯ができ、麻婆豆腐のいい匂いが漂う中。
「翔子〜? 飯食わねぇのか〜??」
階下で、賑やかな会話をしている中、翔子がいつまで経っても部屋から降りてこなかった。
(あいつまだゲームしてるのか? 外の音は聞こえるようになってるし、普段ならとっくに下に降りてきてるはずなんだけどな……?)
翔子の兄、夏木優太は、不審に思って二階にある妹の部屋へ向かう。
「翔子〜? 飯だぞ〜? ……おい、聞いてんのか?」
優太は妹の肩を揺さぶる。……反応がない。
あたりに不穏な空気が漂う。優太は焦って、大声を出した。
「おい、翔子! 聞こえるか!? 翔子!!」
翔子の様子がおかしい。このゲームは、外の音が聞こえるようになっている。なのに、何の反応もない。
「なぁ! 返事ぐらいしてくれ! 翔子!!」
脂汗が、こめかみを伝って垂れてくる。春の温かさが嫌に熱く、優太の心臓が、バクバクと音を立てる。自分では何もできないと悟った優太は、まっさきに両親に助けを求めに行った。
第三章 現実世界への影響
「と、っ父さん! 翔子の様子が変なんだ!」
優太は階下に降りると、真っ先に父親を呼んだ。機械に強く、いつも機械いじりのコツを教えてくれていたからだ。父親なら、翔子の異変をどうにかできるかもしれないと思ったのだ。
「どうしたんだ? そんなに焦って……」
困惑したような父親に、優太はいらだちを覚えながらも、簡潔に事情を説明する。
「だからっ、いつもなら声かけたらすぐにゲーム辞めるのに、反応すらしなくって! お願い父さん! 翔子を!」
両親はますます困惑した。
(なぜだ? 緊急事態だと言うのに、なぜ焦らない? どうして訝しげな目をして俺を見ている??)
優太は、予想外すぎる両親の対応に、ますます混乱した。娘が一大事だと言うのに、ここまで危機感がないなど……。
その後の、両親の口から出た言葉は、それこそ優太を追い詰めた。
「ゲームの中で眠ってるんじゃないか?」
「は……? はぁ!? んなわけ無いだろ?! パズルゲームだぞ!!」
呑気な両親の様子に腹を立てる優太。それもそのはず。いつもなら、話しかけたらゲームを辞める翔子が、話しかけても反応がなくなるなんて、そんなのおかしい。自分は、かなりの大声を出していたはずだ。仮に寝ていたとしても起きるだろう。
何度も何度も、これは異常なのだと両親を説得にかかるも、向こうは聞き流すばっかり。
とうとう、優太の戯言というふうに片付けられ、翔子抜きの晩飯となってしまった。
(こんなのぜってぇありえねぇ……。待ってろよ翔子、必ず兄ちゃんが助けてやるからな……!)
優太は、明らかにおかしかった両親に、腹を立てつつも、絶対に助け出すという決意を固めるのだった。
──翌日。
それから、学校に行く時間になっても、翔子はゲームから目覚めなかった。部屋を見に行くと、まだゴーグルを付けたまま、床に座り込んでいる。陽の光が差し込んでいるのに、まったく気づく様子もない。目覚ましのアラームもなりっぱなし。
いくらなんでもこれは異常と気づくだろうと、優太は両親を呼びに行く。と、
「あら、翔子。昨日夜ご飯食べにこなかったけどお腹すいてない? お弁当多めにしておいたからね」
「え……?」
なぜか、母親が何もいない空間に向かって、何かを渡す仕草をしていた。
「え、何してるの……?」
「あら、優太。何してるのって、翔子に弁当渡してるんでしょ?」
両親は当たり前のことのように優太に聞き返した。その光景こそ、何よりも異常であることを示していた。母親の前には、誰も居ない。母親の手には、なにもない。
優太は、内心焦りながら、顔を青ざめながら、冷や汗を掻きながら、恐る恐る母親に質問する。
「な、何言ってるんだよ? 翔子ならまだ部屋でゲームしてて、俺それを伝えに来たんだぞ……? 大体、そこに翔子はいないし、母さんは何も持ってないよ?? ねぇ何言ってるの?? 母さん?」
しかし、いくら言葉を重ねても、母親は無反応。何ならこちらの反応を待っている。優太は、なおも恐ろしくなった。なぜ、反応しないのだろう? なぜ、何もない空間に向かって話しかけている? 優太は頭を抱えて混乱してしまった。
「優太? どうかした? 学校遅刻するわよ?」
「え? あ、あぁ、うん。行ってくる……」
母親に諭され、本当に遅刻しそうだということに気がついた優太は、納得いかない表情で家をでる。
「何なんだよ……この世界で何が起きてんだよ……?」
何か、異常が起きているのは間違いない。
優太は道すがら、翔子をゲームの中から救出するための策を練り続けるのだった。
『ゲーム世界』
「……朝に、なっちゃったね……結局ログアウトできないままだし……」
「そうね……、私たち、一生ここから出られないのかしら……」
翔子たちはというと、いくら歩いても魔物と遭遇できず、お腹が空いて岩に持たれながら倒れ込んでいた。今いる場所は、活気づいた広場から遠く離れ、ゴツゴツとした岩や、切り立った崖などが目立つ、整地が全くされていないエリアにいた。
岩も崖も、茶色や赤褐色。景色が殺伐としていて、広場に戻る気力もなかった。広場に行けば、まだ食事ができたかもしれないが、戻る気力もなく、食べたところで、ここはゲームの中。空腹を満たすことは、不可能だ。
一応、森などで畑を作ったり、川で魚を取ったりなどはできるものの、畑を作るにはある程度のコマンド入力(※プログラムを直接組むこと)に慣れていないといけないし、課金も必要。魚を取るにも、まずは釣り竿をクラフトする必要があるので、材料の樹をブロック崩しするために、パズルを解かなくてはいけない。空腹が満たされないのならば、やる必要のないことだった。
しばらくウンウンと考えながら座り込んでいると、
ザザザ、ザーザーザー、ザザザ
ゲーム内の音楽に、突然ノイズが走った。
「え、何!?」
「なんかヤバそう!」
突然の出来事に、瞬時に立ち上がり警戒する翔子とミカ。
二人のその言葉をきっかけに、世界の色彩が反転した。
茶色や赤褐色だった岩や崖が、水色や、緑などの、異質な色味に変色する。吐き気がするような、水色と緑のマーブル模様に、翔子は思わず声を上げる。
「ひ……!? なに、これ……」
そして、色が反転すると同時に、突如目の前に化け物が湧き始めた。ノイズでできているかのような、実態があるのか疑いたくなる、まさにバグモンスターという表現が正しい。あえて的確に表現するなら、商品のバーコードが何十にも積み重なったような姿、といったところだろう。色味は、わかりやすくするなら黒。
──そう、これが、
「魔物……!?」
「じぃぃぃ……が、が、が、ぎぎぎぃぃぎぎぃぎぎ」
魔物の鳴き声らしいそれは、まるで錆びきった金属の階段を、時間をかけて登っているかのような、耳に痛い音だった。
「うぅ……耳障りな鳴き声ね……」
翔子もそれに賛同する。
「うん……耳が壊れそう……」
景色が恐ろしいというのもあり、お互いに声が震える。そして、ノロノロと歩いていたかと思えば、魔物は急に速度を上げて追いかけてきた!
「「キャァァァァッ!!」」
翔子とミカは、突然の挙動に悲鳴を上げて走り出した。幸い、自分たちに追いつけるほどの速さではないようだ。
しかし、どこまで言っても、不気味な色彩。緑、水色、走っている内に目眩がしそうだ。早い所、この状態を打破しなくては。
走っている内に状況を整理できた翔子は、魔物の騒音に耳を抑えつつ、魔物を退治するための策を考え始めた。
魔物を倒すためには、ブロック崩しを応用する必要がある。
思い出せ、このゲームにおいて、ブロック崩しで、ダメージを与えられる方法をっ!
(そうだ、たしかこのゲーム、ルールのところにこんなのあったはず。えと、『連鎖が終わるまでは近づくな、巻き込まれて、激痛のおそれがある』ってやつ! そうか、連鎖を起こして、あの魔物を巻き込めばっ!)
翔子は、これまでの記憶をありったけ引き出した。
ここまでの道なり。角、崖、岩山。それらからすぐにブロック崩しができるパズルだったものと、雪崩を起こせるほどの地形を探し出す。
ゲームに関する知識だけ、異常に定着の早い翔子はものの5秒で導き出した。
「あった! こっち、ついてきて!」
「っ! わかったわ!!」
走りながら翔子は瞑想する。魔物の追ってくるスピードに合わせ、少しずつスピードを落とす。ミカも、それに合わせた。
「ここで右に曲がる……!!」
曲がった先は、
「行き止まりじゃない! 何考えてるのよ!」
ミカは焦る、もう魔物はすぐ前だ。しかし、翔子はパズル画面を開いたかと思うとあっという間に解き終わってしまう。
しかし、もう魔物が爪を伸ばして襲いかかる手前。
「大丈夫、いけぇ!」
翔子が自信満々で言い放ったその時、ぽんっという可愛らしい音とともに雪崩が発生した。ものすごい轟音を立てながら、魔物を巻き込んでいく。雪崩に巻き込まれた魔物は、機械のノイズのような音で消滅していった。
雪崩れたブロックは、自動的に翔子の手持ちに入るため、道を塞がれる心配もない。
「ふぅっ、久しぶりに知識を活かせたよ! スッキリ〜」
翔子は冷や汗を拭うと、魔物がいたところに向かって勝ち誇る。しかし、翔子のセリフを聞いたミカは、いても経ってもいられず話しかけた。
「……ねぇ、久しぶりにって、もしかして今までやったことなかったの!? あなた殺す気!?」
「え〜殺すとかひどいな〜。ミカだってテクニックはあるのに知識だけないじゃん、お互い様でしょ〜?」
翔子は余裕そうに、しかし、息切れしながらも言い返した。ミカにとって、ここを突かれるのは致命的なのだ。
「ウ゛、それを言われると……」
そんなこんなで、空腹を忘れて会話を楽しんでいると、どこかへ消えたアルトが姿を表した。
「やぁ、無事に魔物を倒せたんだね。ほらこれ、お腹すいてるでしょ? 友だちがいるって言ってたし、2人分用意しといた」
「あ、アルト! ありがと〜、ちょうどおなかすいてたとこなんだ〜……って、ここゲームの中の世界だよね!? さすがに空腹は満たされないんじゃ……?」
「残念ながら、ここでも、空腹を満たせるようになっちゃったんだ。何なら栄養も取れるしね」
「「はぁ!? いや流石に栄養は取れないでしょ!!」」
その言葉を聞いて翔子とミカは困惑する。さすがにありえない。満腹感なら再現できるかもしれないが、流石に栄養までは……。
話半分に聞きながら、二人はサンドイッチを頬張った。ふわっとした食パンの感覚、シャキシャキのレタスとハムの適度な塩加減。絶妙な匙加減のマヨネーズが、二人の空腹を癒やす。二人は暫くの間、夢中でサンドイッチを頬張り続けた。
しばらくして、持ってきてくれたサンドイッチを完食し、冷静に戻ったミカは、今の爆食いを反省しながらも、慎重に質問した。
「……、どういうことよ? どんな技術使ったらそうなるわけ?」
とりあえず、持ってきてくれたサンドイッチを食べて、本当にお腹が膨れたので、信用はする。物理的に弱っていたのが、元気にもなれた。本当に栄養が取れるのかもしれない。しかし理解は及ばなかった。
そして、ミカが話しかけてもアルトは反応しない。
空気を読んで、慌てて翔子が代わりに質問する。
「あ、えっと、どんな技術を使ったらそうなるの?」
「それは僕にもわからないよ、人間ってすごいよね」
アルト即答。ヒントすらなし。
「……私だけ質問できないのほんっと不便」
「そういうのは良くないよ」
耐えられないというようにミカがボソッという。翔子は小さい声で諌める。たしかに不便であろう、ミカが何かを話しかけても、アルトには聞こえないようになっているのだから。
「じゃ、次のヒントを教えるね。現実世界の人と、どうにかして連絡を取るんだ」
アルトは、そう言い残し、サンドイッチが入っていたバスケットを残して消えていった。
いつの間にか、世界の色は元通りになっていた。わけも分からず顔を見合わせる二人を、暖かくもない、どこか冷たい偽りの太陽が、ずっと照らし出していた──
『現実世界』(朝)
その頃。
優太は、パソコンのディスプレイを凝視し、ものすごい速さでキーボードを叩きながら、妹のいるゲームの中を模索していた。妹が被った状態のゴーグルと、パソコンとを、時間かけて繋いだのだが、
「っち、なんで干渉できないんだよ!?」
普段なら映し出されるはずの、妹のゲーム内が、全く映し出されなかった。
「そんな、俺、こんなときに……!!」
無力、あまりにも無力だった。